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文学

『それからはスープのことばかり考えて暮らした』書評

吉田篤弘の作品を読むのは、これが2冊目である。『つむじ風食堂の夜』(ちくま文庫)は、たしか2年前くらいに読んだ。現実とファンタジーのあいだのような雰囲気と、ほんわりとこころのあたたまる話が、非常に魅力的な作品だった。その後も、気になってい…

小沼丹『藁屋根』書評

『藁屋根』(講談社文芸文庫 2017年12月)を書店で見つけ、頁をぱらっとめくってみると、「谷崎さん」の文字が目に入った。ほかにも「井伏さん」「広津さん」などの名前が出てきており、これは私小説的なものなのだろう、と思う。また、少し前に『村の…

書評『輸入学問の功罪――この翻訳わかりますか?』

逐語訳への妄執 『資本論』向坂訳を題材に 第一号の追加資本を成す剰余価値が、原資本の一部分による労働力の購入の結果だったかぎりでは、すなわち、商品交換の諸法則に一致する購買、また法律的に見れば、労働者の側においては彼自身の能力にたいする自由…

『フラッガーの方程式』感想

浅倉秋成を、私はなんて評すればいいのだろう。『ノワール・レヴナント』で第十三回講談社BOX新人賞Powers を受賞してデビューした浅倉秋成は、同じく第十三回講談社BOX新人賞Powers の応募作を加筆修正した『フラッガーの方程式』、三年ぶりの新刊となった…

「宵野春琴伝」~『春琴抄』所感~

その回数をしっかりと数えたことはないが、私がいままで一番多く再読した小説作品は、おそらく谷崎潤一郎の『春琴抄』である。 私のことを知っているひとからはしばしば驚かれるのだが、私の谷崎との付き合いは、時間からすればわりと浅い。大学には入って初…

書評 ジョン・アーヴィング『ピギー・スニードを救う話』

異端者 ジョン・アーヴィング 著者ジョン・アーヴィングは現代アメリカ文学の旗手である。『熊を放つ』、『ガープの世界』、『サイダーハウス・ルール』など日本でも有名な作品が多数ある。ちなみに『熊を放つ』 (中公文庫) の翻訳者は村上春樹である。アー…

「小説の筋」論争からみた、芥川と谷崎

最近、『文芸的な、余りに文芸的な/饒舌録ほか』(講談社文芸文庫)という本が出た。言うまでもなく、芥川龍之介と谷崎潤一郎との間に起きた「小説の筋」論争に関連する文章を編纂した本である。私はそれなりの時間をかけて、この「小説の筋」論争について…

アメリカ禁書ランキングトップ10 2016年度版 後編

ランキング一位 「This One Summer」を読んで 一位の「This One Summer」をKindleで購入して読んだ。そもそも同作が禁書になった理由を振り返ろう。LGBTの人物が登場し、薬物が使用され、不敬*1で、「大人びたテーマと相まって性的に露骨」だと考えられたか…

アメリカ禁書ランキングトップ10 2016年度版 前編

アメリカ図書館協会 (en:American Library Association, ALA)は「Top Ten Challenged Books」というランキングを発表している。意訳すればアメリカ禁書ランキングトップテンとも言うべきものだ。ただ、ここでchallengedという言葉は禁書運動のことを指してい…

『志賀直哉随筆集』書評

『志賀直哉随筆集』書評 言わずと知れた「小説の神様」志賀直哉。しかし、志賀直哉の小説は一見した印象ほど、わかりやすいものではない。私小説だったり、心境小説だったり、そう評されることも多い志賀直哉は、反自然主義から出発している。たとえば晩年の…

『茄子の輝き』書評

滝口悠生『茄子の輝き』書評 初めての八重洲ブックセンターで浮かれていなければ、もしかしたらこの本を私は手に取っていなかったかもしれない。 というのも、芥川賞を受賞した『死んでいない者』の良さが、あまりよくわからなかった。大きな事件も極端に現…

書評『炸裂志』 閻連科 後編

文責 雲葉零 神実主義とは何か 本作では一種の超現実的な描写方法が取られている。例えば、孔明亮が出世の書類をかざしただけで枯れていた花がまた咲き始める。作者をこの手法を神実主義と名付ける。『炸裂志』に収録されている『神実主義とはなにか-外国版…

書評『炸裂志』 閻連科 前編

文責 雲葉零 閻連科の紹介 村上春樹に返信を送った中国人作家 時は2012年、尖閣諸島問題で日中が激しく対立していた時期に村上春樹は『魂の行き来する道筋』というエッセーを発表した*1。当時、中国の書店から村上を始めとする日本人作家の本が撤去されると…

書評『鏡の中を数える』プラープダー・ユン 後編

『オタッキーな家族』 オタクという言葉よりもむしろ、それぞれが奇癖を抱えている家族といったほうが分かりやすいだろう。少なくとも、彼らはアニメ、漫画、アイドル、鉄道などのよくいるオタクではない。 そこで、家族構成と彼らの奇癖を紹介する。 カーン…

書評『鏡の中を数える』プラープダー・ユン 前編

雲葉 零 『鏡の中を数える』は一二の短編が収録されている、短編集である。この短編集に収められている『存在の有り得た可能性』は東南アジア文学賞を受賞している。また、訳者はタイ文学者で東京外国語大学名誉教授の宇戸清治である。 プラープダー・ユンは…

下流文学、あるいは読まれない小説達のために

文責 雲葉 零 下流文学とはなにか? この単語を知らないと言って恥じることはないし、検索する必要もない。何故ならば、私が創造した単語であるからだ。しかも、その概念を公開するのはこれが初めてなので、知っているはずがない。だから、まずは簡潔に下流…